BY PROM JAPAN|2020年10月16日

「デニムのパッチワークで袴を作る」。人生の節目といえる成人式に、男性の第一礼装である袴を着る人は多いでしょう。そんな袴を、自ら生地を調達して製作したのが谷川哲平さんです。一見型破りな試みですが、成人という節目における「自分」を表現しながらも、「守るべき伝統」はしっかりと残したといいます。

「人間」とのアナロジーを感じたという「デニム」へのこだわり、成人式における「正しい装い」とは何か、そしてどのような想いで袴を紡いだのか。じっくりお話を伺いました。

デニムのパッチワークで仕立てた袴を着る谷川哲平さん

谷川哲平さん。現在は、服関連の企画とデザインをする会社で働く。もともと服が好きだったが、手に職を付けるべく関西美容専門学校へ入学。美容師資格を取得し、18歳から3年半、スタイリストとして活動。服飾を本業にしようと思い立ったのはスタイリスト時代からで、仕事の傍らブランド立ち上げの手伝いも経験した。ミシンでの服作りや繊維関係を学び、素材への造詣が深い。とあるラグジュアリーブランドで副店長を経験し、現在に至る。

INDEX
  1. 「もったいない」から始まった袴作り
  2. デニムと人間は似ている
  3. 伝統とどう向き合うか
  4. 守破離 — 型を守るからこそ、自分を表現できる
  5. これから成人式を迎える若者へ
  6. おわりに

「もったいない」から始まった袴作り

―成人式で袴と聞くと、「文化の伝統を大事にする」というよりも、「同郷の仲間で集まって同じ袴を着る」というイメージがあります。はじめて袴姿の成人式を見たとき、どのような印象を持ちましたか?

先輩の成人式を見て、正直「もったいない」と思いました。伝統を履き違えて袴を着て目立ちたいだけだったら、袴なんて着る必要無い。自分をもっと自由に表現できたらいいのにと思いました。

―それでもなお、袴の製作をしようと考えたのはなぜですか?

特に大きな理由はないのですが、先輩が袴を着ているのを見て、自分ならもっと違う形でカッコよさを表現できるのではないかと思ったからです。実家が家紋持ちで、小さい頃から和服に触れる環境があったので、和服への抵抗が無かったこともその理由かもしれないですね。生まれた時にはすでに大島紬の着物をおばあちゃんに仕立ててもらっていました。人よりも和服を着る機会が多かったという点で恵まれていたかもしれません。

ただ、高校生ぐらいまでは、伝統なんて堅苦しい、面倒臭いと正直思っていました。でも、家を出て美容師などの仕事を通していろいろな方と会う中で、先祖が残したものを大事にするのも悪くないなと、ふと感じるようになったんです。家を出てから父と仲が悪くて、成人式の晴れ舞台に、先祖が背負い続けてきた家紋を袴につけたら父が喜ぶんじゃないのか?と思ったんです。実際に袴を着た僕の姿を見て、口には出さなかったけど、喜んでくれていたと思います。

デニムと人間は似ている

―デニムを用いると聞くと奇抜な試みのように思えますが、どうしてデニムを素材として選んだのですか?

デニムと人間って似ていて、自分もデニムのように時間を重ねながら価値を出したいと思ったからです。ヴィンテージデニムがその例だと思います。もともと普通の商品で、普通の価格で売られているものでも、いつかはボロボロになる。それでも、それを「エイジング」と呼んで価値が増す。ダメージを受けると、エイジングを経て「ヴィンテージ」になり、味を増す。人間も同じことが言えると思うんです。「歳をとる」って言い方はあまり好きじゃないけど、自分は「歳を重ねる」ことで、時間や経験を積み重ねて良いものになっていきたいと思うんですね。

―人間とデニムは同じ。自分をデニムで表現するとは、面白い発想ですね。袴のディテールを教えていただけますか?

パーツ素材生地の種類
トップスシルクデニム1種類
シルクデニム1種類
羽織デニム48種類
48種類のデニムをパッチワークした羽織の生地

羽織は、違う種類の物を用いたり、同じデニムでも自分で色抜きを行いアレンジしたものを用いたりしました。一方、ベース(トップス、パンツ)の素材にはシルクデニム1種類しか使いませんでした。

実は生地を何にするのか悩んでいた際に、知り合いの問屋さんから「面白いデニムが1ロール入荷しました。でも、誰が作ったかも、どこの国で作られたかもわからないものなんです」と電話がありました。実際に見にいくとシルクのデニムが置いてあって、「シルクなのにデニム!?なにそれ」って始めは思いました。この時点でもう興味津々でしたね(笑)。一見すると紺色の綺麗なインディゴデニムに見えるけど、太陽光に照らした時に生地が紫色に光るんです!「なんなんこのデニムめっちゃエロいやん!」って思いました。そのまま1ロール買ってしまいましたね。

今思うと、シルクでできているので光沢があり、たまたま染料とかの兼ね合いで紫色に見えただけだと思うのですが、その時は本当に良い生地に出会えたと思いました。

―なぜ羽織だけはパッチワークで作ったのですか?

大小さまざまなデニムパネルを縫い合わせたパッチワークの羽織

デニムで袴を作ろうと思ったけど、単純な全部デニム一色の袴は、どこかの誰かが作ってるんじゃないかなと思いました。目新しいけど、この時代やったら同じこと考えてやっている人がいるのではないかと思って。もちろん、ベースは唯一無二の自分を示しているのでデニム一色にしました。

でも、それを纏う羽織には、1パネルを1つの人間と捉えるパッチワークという技法を使うことで、「今までいろんな人に支えられて自分という人間が出来上がっている」というのを表現できるんじゃないかなと感じました。実際、今まで関わってきた色々な人たちをパッチに例えてみました。傷が入ったものを再染色したり、綺麗なデニムをそのまま使ったり。大小様々、色々なデニム生地を使うことによって、様々な人を表現できるよう工夫しました。

伝統とどう向き合うか

―谷川さんの袴には、自分自身だけでなく、支えてくださった周囲の方々への想いも込められているのですね。さて、成人式のニュースを見ると「派手な袴=かっこいい」というイメージがついて回りがちです。派手さばかりが追求される傾向を、どう捉えていますか?

全くその通りだと思います。今の成人式で袴を着ている新成人のほとんどは、カッコよさを求める中で「着崩そう」としていると思います。でもそれは、根本的に「本来の着方」を知らないのではないか、という印象を受けます。もちろん、せっかくの晴れ着に対して「あれダメこれダメ」という堅苦しいことは言うべきではないのかもしれません。以前に比べ和装の世界もかなり自由度が高まっていますし、時代に合わせて変化していってこそ、次の時代へと継承されていくわけですしね。ただ忘れてはいけないのは、袴の持つ本質、伝統(クラシック)はしっかりと踏襲することだと思います。成人式という本分をわきまえつつ、本質を残しながら表現することが大事だと考えています。

成人式はなんのための日か、もう一度考えて欲しいですね。自分達のためだけではなく、今まで育ててくれた親御さんや周りの方に、自分を成長させてくれたことを感謝するための日だと思います。そういった場面では「正装」が求められる以上、その「正しさ」をしっかりと理解して欲しいと思います。成人式の服装に「芸能人の〇〇が着用した物」「ブランド〇〇の有名なもの」「今一番かっこよく見える着こなし」などの流行りを取り入れるのは、個人の自由だと思います。それでも、場面における「正しさ」を服装にしっかりと取り入れることで、見た目も変わってくると思います。

―日本人は正しさを追求するあまり、伝統や前例を無条件に踏襲してしまう傾向が強いとも言われます。伝統の「守り」と「攻め」の狭間で、何を意識して袴を作りましたか?

「成人式の日にデニムの袴を着る」って聞くと着崩しているように聞こえるけど、袴という定義は絶対に崩すことはありませんでした。制作にあたっては、袴の作りや縫製の方法という昔から受け継がれている「型」はしっかりと守りました。素材はデニムを利用しましたが、完全に袴だといえます。

守破離 — 型を守るからこそ、自分を表現できる

谷川さんの試みは、伝統芸術の世界で語り継がれている「守破離(しゅはり)」を体現したものといえます。

守破離とは

  • — 基本の型を身につける段階
  • — その型を破って応用する段階
  • — 創意を加え、自分独自のものを追求し確立する段階

袴製作においても、絶対に踏み外せぬ「型」を守りつつ、それを止揚して、初めて「自分を表現できるようになる」のです。

これから成人式を迎える若者へ

―スーツ・袴を問わず、これから成人式を迎える若者に「服装」とどのように向き合って欲しいと思いますか?

谷川さんが製作したデニム袴の全身姿
制作したデニム袴は現在も新成人に引き継がれている。

成人式は、一度しかない人生の節目。自己表現をする以前に、成人式の本分を理解しつつ、伝統を踏襲する「守」の大事さを考えるきっかけになってほしいです。伝統とは、先人たちが道を極めていく上で、あらゆる無駄を省き、最もうまくいく要領を長年にわたって積み上げてきた、いわばノウハウの集大成といえます。

つまり、「型」である定石を覚え、伝統に込められた想いを理解することが、「新たな自己表現」につながるのだと思います。もちろん、「守」が一番難しいのですが。そして、何より自分を育ててくれた周りの方への感謝も忘れないで欲しいと思います。

谷川さんの活動は、Instagram(@teppeitanigawa)でもご覧いただけます。

おわりに

今回お話を伺って、節目における服装は「ただ派手さを追求するだけでなく、作り手や着る人の想いを反映させたもの」でなければならないと強く感じました。

私たちProm Japanも、新しい成人式「プロム」を提案するにあたり、新成人の服装をとても重要視しています。成人式という通過儀礼の際に、単に欧米の儀礼を外形的に真似るのではなく、「大人としての装い・立ち振る舞い」の基本を学ぶことで、大人への一歩を進んで欲しいと考えています。見た目だけでなく、その装いや場面の本分をしっかりと理解した上で、成人としての自分を表現して欲しいと思います。

デニム袴はレンタルも行っているそうです。ご興味のある方はプロムのお問い合わせまで。

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※本記事は2020年10月の取材をもとに執筆した内容を再編集したものです。